【社会実験】
群馬大学社会貢献事業
声かけ機能付e自警ネットカメラによる地域社会の安全・安心の向上
〜防犯カメラからの声掛けにより,
犯罪防止,安心感向上の効果が期待できるか?〜
【概要】
本研究室で研究開発を進めている「声掛け機能付防犯カメラ(e自警ネットカメラ)」を5台作製し,桐生商店連盟協同組合(理事長:大澤豊様)と協働で,以下のような社会実験を行う.
[1] 犯罪抑止(落書き防止,立小便防止,などの効果),および,住民・通行人の安心感に対する,声掛け機能(下の@A)の効果を検証する.
@ 通行人の自動検知・自動声掛け機能(開発済み),
A 通行人の異常行動の検知・声掛け機能(開発中)
[2] 「2重暗号化」「閲覧行為の完全なる記録」による,一般市民のプライバシー保護の実現を目ざした仕組み作りを行い,その効果を検証する.

図1 社会実験の組織図
【スケジュール】
2019年11/28(木):事前説明会
〜2020年1月17日(金):試験運転期間
2020年1月17日(金):社会実験開始式 & プレス発表
2020年1月17日(金) 〜2021年3月:社会実験の実施期間
2020年1月中:アンケート(1回目,社会実験開始時)
2020年3月21日(土):中間報告会 (安心・安全まちづくりセミナーin桐生2020)
【地域貢献事業としての意義】
地元の商店連盟が困っている犯罪行為(=落書き,立小便,などの犯罪)の抑止に向け,地元との協働で,大学発の新技術を活用した解決策を探索する試みである.足元の問題である犯罪行為の抑止を達成しつつ,e自警ネットカメラの最大の特徴(=世界標準を目指すコンセプト)である「閲覧履歴の完全なる記録」機能によるプライバシー保護効果についても,検証する.
【声掛け機能】
声掛け機能として,以下の2種類の機能を導入することを計画している.
@ 通行人の自動検知・自動声掛け機能(開発済み),
A 通行人の異常行動の検知・声掛け機能(開発中)

図2 声掛け機能のイメージ
【社会実験の運用概要】
藤井研究室では,一般市民のプライバシーを守るための手法として,以下を開発してきた.
【A】第三者(ハッカー,窃盗犯など)による悪用の防止:
画像を暗号化保存し,管理者のみが暗号を解除し,閲覧できるようにする.特に,複数の暗号キーによる画像アクセス制御(=アクセス権に応じたモザイク化・画像鮮明度の強度の調整)を提案している(特許第4314369号,特許第5757048号,特許第5840804号など).
【B】 管理者(市役所,警察署,及び,それらの職員など)による悪用の防止:
第三者機関が運営するサーバによる「閲覧履歴の完全なる記録」を提案している(特願2015-167298 など).
上記【A】【B】の機能を実装したシステムが「e自警ネットカメラシステム(基本構成)」である.
基本構成の運用(図4,図5)は,以下のように行う.
[1] 閲覧権者(商店組合,その担当職員,など)が閲覧装置を使い,商店街に設置・運営する街路カメラユニットから,インターネット経由で画像を取得・閲覧する際は,(信頼できる)第三者機関(=群馬大学が模擬的に役割を担う)により管理・運営される記録サーバからの許可が必要になる.
[2] 記録サーバは,第三者機関により運営され「どの閲覧者に,どの画像を,どの程度の不鮮明度での閲覧を許可したか」を,確実に記録する.
[3] 今回の社会実験においては,すべての閲覧行為は完全に記録され,その場で,あるいは,後日,業務命令と照合される.これにより,悪用は確実に発覚することになり,「公式業務と関係がない閲覧行為」は,強力に抑制されることになる.
[4] なお,記録サーバは,画像ファイル,暗号キーに触れることは無く,機械的に,予め定められた規則通りに,許可コードを発行し,その過程を記録することに徹することになる.

図3. e自警ネット灯システム(閲覧行動の完全な記録
[5]各街路カメラユニットは,商店組合が秘匿的に設定した暗号キー(Key-AとKey-B)により画像を暗号化して保存する.このため,仮に,第三者が画像ファイルを盗んだとしても,それを開くことは出来ない.
[6] 群馬大学の研究グループは,商店組合から,Key-Aのみの開示を受ける.群馬大学の研究グループは,Key-Aを用いて,不鮮明な画像の閲覧をすることができ,カメラの動作状態の確認をすることができる.

図4.暗号化保存の仕組み
【社会実験の内容】
* カメラユニット5台を導入して,地域と共に,社会実験をする
* 声掛けによる落書きや立小便の防止効果の検証
* 住民,通行人の安全・安心が高まるか?(アンケート調査を実施
* 最適な声掛けのタイミング,文言,口調,などを調べる.
【社会実験開始時(スタート時)の条件設定】(案)
[1] 画像の所有権は,各商店組合が持つ.
[2] 警察から画像提供の要請があったときには,以下のような手順をとなる.
*各商店街で,提供の可否を決める.
*画像を提供することが決まった場合が,暗号化を解除した画像ファイルを和警察に渡す.もしくは,印刷したものを渡す.決して,暗号化 Keyは開示しない.
[3] この条件は,社会実験中,随時,話しあいにより,変更することができる.ただし,どのように運用しているか?また,運用してきたか?は,各カメラ設置場所に掲示する貼り紙からリンクされる「説明サイト」で説明される.

図5. カメラ設置場所
1. 各商店街の閲覧権者や声掛け案
T. 桐生市本町三丁目商店街振興組合
設置場所:プロムナード三番街パーキング前
閲覧権者:岡部精一,原勢隆一

図6. 設置場所の詳細(プロムナード三番街パーキング前)
U. 桐生中央商店街振興組合
設置場所:ジョイタウン広場内
閲覧権者:

図7. 設置場所の詳細(ジョイタウン広場内)
V. 桐生市本町六丁目商店街振興組合
設置場所:PLUS+アンカー前
閲覧権者:多田和生

図8. 設置場所の詳細(PLUS+アンカー前)
W. 桐生市錦町商店街
設置場所:お菓子の松本前
閲覧権者:お菓子の松本

図9. 設置場所の詳細(お菓子の松本)
X. 桐生市末広町商店街振興組合
設置場所:MEGAドン・キホーテ前
閲覧権者:今川守

図10. 設置場所の詳細(MEGAドン・キホーテ前)
表1 声掛け内容
表2 実氏名とユーザーID
【情報開示サイト】
全ての閲覧行為は,下記にて,公開されています.
https://conf.e-jikei.org/cgi-bin/ejklogger/phpview02.php
【背景】
モノのインターネット(IoT),ビッグデータ,人工知能(AI)などの情報通信技術(ICT)が進歩する中で,国・自治体が公共的利益(=社会の安全・効率)を追求し,また,営利企業が利益・効率を追求する帰結として,超情報化社会が到来することが予想される.市民のプライバシー保護に対して特別の対策をしない限り,超情報化社会は超監視社会に直結する恐れがある.一例として,研究代表者らは,近未来においては,すべての街路灯にネットワークカメラが内蔵される可能性が高いことを指摘し,社会の安全・効率が飛躍的に向上する反面,プライバシー保護が最大級の課題となるであろうことを議論している.(下記,[参考文献1]参照.)
[参考文献1] Yusaku Fujii and Noriaki Yoshiura, “Will every streetlight have network cameras in the near
future?”, SCIENCE, eLetter (21 October
2016)
http://science.sciencemag.org/content/347/6221/504/tab-e-letters
理由・根拠として,以下が挙げられる.
【理由1】技術的には,安価なLED街路灯と安価なネットワークカメラを単純に組み合わせるだけで実現できる.街路灯内蔵とし,既存街路灯の交換時期を待つことにより,カメラとしての設置コストは無視できる.IoTの普及により,ネットワーク接続コストも劇的に低下することが予想される.それに加え,画像の保存場所を個々のカメラ内蔵メモリとし,必要な場合にのみファイル転送する方式とすることにより,通信コストも極めて小さくできると予想する.
【理由2】社会安全,社会効率を向上させる上で,絶大な効果がある.国内市街地のあらゆる路地がカメラの視野に入ることは,あらゆるヒト・車両の「芋ずる式」追跡が容易にできることを意味する.
すなわち,プライバシー侵害を気にしない場合は,以下のような社会を容易に実現できる.
l 犯罪者が逃げることが出来ない社会:誘拐,ひき逃げ,空き巣,強盗,痴漢,落書きなど,道路を使って逃走する形態の犯罪を犯した者は逃げられない.このため,逮捕されたくない者は,犯罪をしなくなる.この結果,犯罪発生数が激減する.
l 行方不明者が確実に発見される社会:子どもや徘徊老人の安全が確保される.
さらに,ネットワークカメラが持つ画像処理能力,通信能力を活用することにより,以下のような社会安全・社会効率の向上が実現される.
l 異常行動・異常状態の自動検知・通報.
l 街路灯のオンデマンド制御による省エネルギー化.
l 自動運転車両との情報交換による危険回避や渋滞抑止.
以上のように,「すべての街路灯にネットワークカメラが街路灯照明エリアを視野に収めるように内蔵されること」は,容易・安価に実現でき,かつ,社会安全・社会効率の向上に対する効果は絶大であることから,プライバシー侵害を気にしない全体主義国家においては,近い将来において,躊躇なく,実現されるものと考える.
しかし,民主主義国家においては,重大な危険にさらされる一般市民のプライバシーを,如何にして保護するかが重大な課題になる.何も対策をしなければ,当該システムを利用できる組織・個人は,あらゆる市民の行動を容易に把握できることになる.そうした「悪用」を確実に防止する対策が必要となる.
本社会実験において,@防犯カメラによる商店街の安全・安心・効率の向上と,A一般市民・買い物葯のプライバシーの厳格な保護,を両立される運用方法を見出すことを目指す.そして,それを,積極的な情報発信を通して,全国の商店街,地域社会に普及させていくことを目指す.
【関連リンク】
【連絡先】
群馬大学理工学部
群馬県桐生市天神町1-5-1 群馬大学理工学部3号館
教授 藤井雄作 電話:0277−30−1756
助教 田北啓洋 電話:0277−30−1748