市民参加型の地域見守りシステムに関する社会実験 @ 愛知県 尾張旭市旭丘連合自治会

〜 プライバシー保護機能付き常時録画型TVドアホンを活用した,自治会主導の住民ボランティアによる,地域社会のきめ細かな見守りを実現する試み 〜

 

【概要】

一般市民による自宅回りの見守り,及び,それを活用・組織化することによる地域社会の安全・安心の向上に適した防犯カメラとして,常時録画型TVドアホン「e自警ドアホン」が,群馬大学と株式会社ロッキーの共同研究の成果として生まれた.20151月から,e自警ドアホンの試作機(79台)を用いた社会実験を,愛知県尾張旭市で実施している.この社会実験の概要,住民アンケート(対象:約2200世帯)の結果,犯罪発生件数の変化(半分以下に削減!)などについて,報告する.

 

e自警ドアホンの概要】

e自警カメラ(プライバシー保護機能付き防犯カメラ)の機能を内蔵したTVドアホンである.e自警ドアホンは,以下のような特徴を有する.

(1)     通常のTVドアホンとしての機能: 呼出ボタンが押された時は,通常のTVドアホンと同様に,通常形式で録画される.住人が閲覧できる.(常のTVドアホンとしての機能は全て有する.)

(2)     e自警カメラとしての機能: 呼出ボタンが押されていない時も,常時録画(24時間録画)される.ただし,暗唱コード(パスワード)で暗号化された上でメモリーカードに保存される.画像の閲覧には,専用ソフトウェアと暗唱コードが必要となる.e自警ドアホンと画像の所有者と,暗唱コード設定者(閲覧権者)を,別人とした運用を行うことができる.例えば,一般住民がe自警ドアホンを所有・運用し,自治会・捜査機関等が暗唱コード設定者(閲覧権者)となることで,一般通行人のプライバシーを守ることができる.また,事件・事故の発生に際しては,住民から,自治会・捜査機関等に画像ファイルが提供されることで,地域の安全・安心の向上が図れる.

(3)     低コスト: e自警ドアホンの室内ユニットと室外ユニットは2本の導線で接続する方式としている. 既設の呼び鈴・ドアホンの配線を利用できるため,交換の際,新たな配線工事は不要である.このため,既設の呼び鈴・ドアホンとの交換工事は,簡便・安価に行うことができる.

 

1.愛知県尾張旭市の社会実験における閲覧権の設定方法

e自警ドアホン(=e自警カメラの機能を搭載した常時録画型TVドアホン)を活用した,

住民ボランティアによる,地域社会のきめ細かな見守りを実現する取り組み

 

【社会実験のこれまでの経緯】

旭丘連合自治会により,以下のような日程で,社会実験の準備,実施を行われてきた.図2に,設置場所の概略を示す.

 

【社会実験の準備期間】

201492                       協力家庭募集開始

2014930日             募集締め切り

2014101日             応募家庭の絞込み

20141020日               協力家庭への説明会

20141027日               協力家庭の申込締切

2014114日             委員会による協力家庭の追加

2014118日                 設置可否の現地確認作業の開始

20141120日               協力家庭の確定

2014128                     設置家庭への工事説明会

20141212

2015118  協力家庭への取り付け工事

 

【社会実験の実施期間】

2015125日             社会実験の開始(式典)

201578日                模擬訓練の実施.

201591日〜30日    アンケート調査の実施.

 

 

2. 設置場所(全79台)

 

 

3. 設置例(室内ユニット)

 

【社会実験の器材,及び,工事について】

社会実験に使用したe自警ドアホン(79台)は,製造元の株式会社ロッキーから,無償提供された.設置工事は,高橋電気工事株式会社により,無償で実施された.図3に,室内ユニットの設置例を示す.e自警ドアホンの設置過程(協力家庭)は,世帯主からの希望に加え,児童の通学路の防犯効果の観点,設置工事のやり易さの観点から決定された.本社会実験におけるe自警ドアホンの設置密度は,尾張旭市立旭丘小学校の校区に含まれる2705世帯中79世帯(約2.9%)である.

 

備考:尾張旭市立旭丘小学校には,20自治会(町内会),2705世帯が含まれる.今回,社会実験に参加した旭丘連合自治会には,上記のうち,13自治会(町内会),2262世帯が含まれる.

 

【アンケート調査結果】

201591日〜30日に,旭丘連合自治会内の全2262世帯に対して,アンケート調査の実施を実施し,1333世帯から回答を得た.(回収率:59%

 

問2

 約51%の住民が,安全・安心が良くなったと感じ取っていることが明らかとなった.しかしながら,約21%の住民が,治安はあまり良くなっていないと感じていることが明らかとなった.良くなっていないと感じる理由は,明らかではないが,e自警ドアホンの設置密度(2705世帯中79世帯.約2.9%)が,まだ,足りないことが原因であることも有り得ると考えられる

 

問3

 約70%の住民が,プライバシーを守るための機能の必要を感じていることが分かった.

 

問4

 約83%の住民が,e自警ドアホンのプライバシー保護機能について,有効であると回答した.プライバシー侵害の危険性に対する住民の意識の高さが明らかとなった

 

問5

 約81%の住民が,e自警ドアホンは,今後,社会に受け入れられていくと思うと回答した.治体,町内会等の主導の下で,一般市民がe自警ドアホンにより自宅周りを見守ることで,地域社会のきめ細かな見守りを低コストで実現でき,かつ,プライバシー保護も高いレベルで達成できることに対する,住民の理解が広がっていることが明らかとなった.

 

問6

➡ 約3%の住民が,全学自己負担でも,e自警ドアホンを自宅に導入したいと回答した.これに対し,約46%の住民が,一部補助があれば,e自警ドアホンを自宅に導入したいと回答した.自治体による補助金の拠出が,e自警ドアホンの普及の上で重要であることが明らかとなった.補助金が必要と回答した心理は明らかではないが,@単純に負担金額を低減したいという考えの他に,A地域の安全・安心を高めるために協力するということをハッキリとさせるためにも,公的な補助金を受けて実施したという考えの人も,居たのではないかと想像する.

 

【旭丘小学校区の犯罪認知件数】→ 66%も減少!

2016-01-13年間犯罪発生比較

旭丘校区の犯罪発生件数は,e自警ドアホン(79台)を[設置前の平成26]62件と比べ,[設置後の平成27]21件と,66%も減少した.これは,e自警ドアホンを設置ことによる効果が,大きいと考えらえる.

 

【関連資料】

研究グループに関しては,下記のNPO e自警ネットワーク研究会のホームページをご参照ください.

http://www.e-jikei.org/

 

群馬大学理工学部藤井研究室については,以下をご参照ください.

http://www.el.gunma-u.ac.jp/~fujii/

(英語版のページが開きますので,「日本語サイトへ」のボタンをクリックしてください.)

 

【研究グループの活動の狙い】

近年,日本では,子供の誘拐,強盗,空き巣,痴漢等,多くの犯罪が発生しています.これらの犯罪の多くが,閑静な住宅街,通学路,一般道路などで発生しているにも関わらず,目撃者が居ない場合が多く,問題となっています.

一方,繁華街,中心市街地などの犯罪多発地域,犯罪捜査の上で重要な場所等において,行政等による防犯カメラ(CCTVカメラ)の設置が全国的に進んできています.しかしながら,これら従来型のCCTVカメラシステムでは,集中管理に伴う高コスト,プライバシー侵害の危険性への懸念・不快感などから,住宅街,一般道路等,犯罪の起こる確率が低い地域・場所への高密度な導入は,望めない状況です.そのため,住宅街での事件で,目撃情報がないという事態が生じています.

ごく最近になり,児童の安全を守るために,東京都,群馬県太田市,群馬県高崎市などの自治体が,住宅街,小学校の通学路,などに防犯カメラを設置する計画を進めています.その際には,プライバシー保護の徹底,低コスト化が大きな検討課題となります.なお,東京都の計画(1300校に対して合計6500台)でも,一校あたり僅か5台という超低密度な設置に留まります.

このような状況の下,我々は,近年急速に普及した情報通信技術(ICT: Information and Communication Technology)を利他主義に基づいて市民が使うことにより,地域社会の安全性を向上させようとする考え方「e自警ネットワーク」を発案し,この考え方を普及させるために群馬大学理工学部内にNPO法人e自警ネットワーク研究会(http://www.e-jikei.org)を設立し,啓発・普及活動,研究開発に取り組んできています.e自警ネットワークは,次の2つの基本コンセプトより構成されます.

コンセプトA:科学技術を活用し,一般市民が,身の回りを確実に見守る社会の実現.

コンセプトB:暗号化保存等による,一般市民のプライバシーの確実な保護の実現.

「市民の協力により,市街地の隅々まで見守られる社会」を,広く普及した科学技術で実現しようというのが,e自警ネットワークの1番目のコンセプト(コンセプトA)です.また,プライバシー侵害の問題を解消する決め手として,画像を暗号化し保存することにより,画像の閲覧権のきめ細かな設定を可能にするというのが,2番目のコンセプト(コンセプトB)です.

 また,行政による市街地の見守りを支援する目的で,行政が導入するのに適したカメラシステムとして,e自警カメラを提案し,パートナー企業が製品化しています.e自警カメラにおいては,撮影した画像は,暗号化してカメラ内に保存されます.暗号キーを適切に管理することにより,「予め,決められた人」だけが閲覧できる,運用形態をとることが可能になります.カメラ内に保存された「暗号化された画像ファイル」を取り出すには,人が,カメラのところまで行く必要があることにより,理由もなくカメラから画像を取り出すことが,非常にやりにくい状況が作られています.

 しかしながら,カメラがネットワークに接続され,カメラ内に保存された「暗号化された画像ファイル」を,瞬時に取り出すことが可能になってくると,「予め,決められ,閲覧を許された人」による悪用の心配が出てきます.この問題を解決するために,今回,新しいコンセプトを提案し,それに基づく,新しいカメラシステム「e自警ネットカメラ」を開発しました.

我々は,「e自警ネットワーク」の普及を通して,「犯罪者が逃げられない社会」,「誘拐された子供が,救出される社会」を全国の地域社会で実現することを目指しています.

 

【連絡先】

群馬大学 大学院理工学府 教授 藤井雄作

群馬県桐生市天神町1-5-1 群馬大学理工学部3号館

電話:0277−30−1756(藤井教授室) 

電子メール

 

群馬大学 大学院理工学府 助教 田北啓洋

群馬県桐生市天神町1-5-1 群馬大学理工学部6号館

電話:0277−30−1748(藤井研究室) 

電子メール