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来るべき超情報化社会におけるプライバシー保護の確立

〜 社会安全とプライバシー保護の両立を目指して 〜

 

来るべきSociety5.0,超スマート社会,超情報化社会は,何の対策も講じなければ,国家・自治体・私企業による安全・効率・利益の追求の帰結として,個人のあらゆる行動・状態が(国家,自治体,企業などが管理・運営する)システムにより監視・記録され,一般市民のプライバシーが極度に侵害される超監視社会(Super Surveillance Society)になる危険性があります.

 

例えば,近未来の社会では,すべての街路灯にネットワークカメラが街路灯照明エリアを視野に収めるように内蔵されることが,想定されます.(下記の [参考文献1] 参照.)

 

[参考文献1] Yusaku Fujii and Noriaki Yoshiura, Will every streetlight have network cameras in the near future?, SCIENCE, eLetter (21 October 2016) 

 

理由・根拠として,以下が挙げられます.

【理由1】技術的には,安価なLED街路灯と安価なネットワークカメラを単純に組み合わせるだけで実現できます.街路灯内蔵とし,既存街路灯の交換時期を待つことにより,カメラとしての設置コストは無視できる.IoTの普及により,ネットワーク接続コストも劇的に低下することが予想されます.それに加え,画像の保存場所を個々のカメラ内蔵メモリとし,必要な場合にのみファイル転送する方式とすることにより,通信コストも極めて小さくできると予想されます.

【理由2】社会安全,社会効率を向上させる上で,絶大な効果があります.国内市街地のあらゆる路地がカメラの視野に入ることは,あらゆるヒト・車両の「芋ずる式」追跡が容易にできることを意味します.

 

すなわち,プライバシー侵害を気にしない場合は,以下のような社会を容易に実現できます.

l  犯罪者が逃げることが出来ない社会: 誘拐,ひき逃げ,空き巣,強盗,痴漢,落書きなど,道路を使って逃走する形態の犯罪を実行した者は逃げられません.このため,逮捕されたくない者は,犯罪を行わなくなります.その結果,犯罪発生数が激減します.

l  行方不明者が確実に発見される社会: 子どもや徘徊老人の安全が確保されます.

 

さらに,ネットワークカメラが持つ画像処理能力,通信能力を活用することにより,以下のような社会安全・社会効率の向上が実現されます.

l  異常行動・異常状態の自動検知・通報.それによる,犯罪の未然抑止.

l  街路灯のオンデマンド制御による省エネルギー化.

l  自動運転車両との情報交換による危険回避や渋滞抑止.

 

 以上のように,「すべての街路灯にネットワークカメラが街路灯照明エリアを視野に収めるように内蔵されること」は,容易・安価に実現でき,かつ,社会安全・社会効率の向上に対する効果は絶大であることから,プライバシー侵害を気にしない全体主義国家においては,近い将来において,躊躇なく,実現されるものと考えられます.

 

しかし,民主主義国家においては,重大な危険にさらされる一般市民のプライバシーを,如何にして保護するかが重大な課題になります.何も対策をしなければ,当該システムを利用できる組織・個人は,あらゆる市民の行動を容易に把握できることになってしまいます.そうした「悪用」を確実に防止する対策が必要となります.

 

私達は,これまでに,「@第三者による悪用」,および,「A管理者による悪用」を防止するための手法を提案してきました.

 

「@第三者(ハッカー,窃盗犯など)による悪用」を防止するためには,画像の暗号化保存と管理担当者IDを用いたアクセス制御(=アクセス権に応じたモザイク化による出力画像の鮮明度制御,など)を提案しています(特許第4314369号,特許第5757048号,特許第5840804号など).

 

「A管理者(市役所,警察署,及び,それらの職員など)による悪用」を防ぐためには,第三者機関が運営するサーバによる「閲覧履歴の完全なる記録」を提案しています(特願2015-167298 など).

 

「閲覧履歴の完全なる記録」を実装したシステムとして,「e自警ネットカメラシステム」を提案し,実証実験サイトにおいて実験を実施してきています.(ただし,社会実装実験は,準備中・予算申請中です.) 

 

図1に,e自警ネットカメラの概念図を示します.「e自警ネットカメラシステム」の動作は,以下です.

 

e-JIKEI Network Camera

図1 e自警ネットカメラシステム (「閲覧履歴の完全なる記録」を実装)

 

[1] 閲覧権者(市役所,その担当職員,など)が閲覧装置を使い,市街地に設置・運営するカメラから,インターネット経由で画像を取得・閲覧する際は,(信頼できる)第三者機関により管理・運営される記録サーバからの許可が必要になる.

[2] 記録サーバは,第三者機関により運営され「どの閲覧者に,どの画像を,どの程度の不鮮明度での閲覧を許可したか」を,確実に記録する.

[3] 全ての閲覧行為が完全に記録され,その場で,あるいは,後日,業務命令と照合される.これにより,悪用は確実に発覚することになり,「公式業務と関係がない閲覧行為」は,強力に抑制されることになる.

[4] なお,記録サーバは,画像ファイル,暗号キーに触れることは無く,機械的に,予め定められた規則通りに,許可コードを発行し,その過程を記録することに徹することになる.

[5] なお,図には記載されていないが,各街路灯ユニットは,市役所が秘匿的に設定した暗号キーにより画像を暗号化して保存する.このため,仮に,第三者が画像ファイルを盗んだとしても,それを開くことは出来ない.

 

近年,街路に設置された防犯カメラが,容疑者の特定・逮捕に大きな貢献をする事例がしばしば報道されています. 防犯カメラを街路に設置することによるプライバシー侵害の危険性に対する懸念は,最近10年間の間に,大きく緩和されてきています. しかしながら,現状のカメラ密度は,あまりに小さく,例えば,「任意のヒト・車両の追跡」を行うことはできません.現状のカメラ設置密度から,「あらゆる路地がカメラで死角なく撮影・記録され,任意のヒト・車両の迅速・確実な追跡できる社会」が実現したときの状況を類推することは困難であると考えます.そこで,私たちは,社会実装実験を実施し,そこにおいて,あらゆる路地のあらゆる地点が一つ以上のカメラにより撮影・記録される(近未来において一般的となるであろう)状態を作り出し,以下の各問について,検証したいと考えています.

[a] 実現可能性?: (プライバシー侵害を気にしなければ,)技術的,経済的な障害は殆ど存在しないか?

[b] 社会安全・社会効率の向上?:社会安全・社会効率の向上において,絶大な効果があるか? 例えば,犯罪者はすぐに逮捕されるか? 徘徊老人はすぐに保護されるか? 

[c] プライバシー侵害の危険性?:民主主義国家においては,一般市民のプライバシー保護が最大の課題となるか?

[d] プライバシー保護の可能性?:「閲覧行為の完全な記録」により,ライバシー保護を厳格に実現できる可能性があるか?

私達は,以上のような独自の着想に立脚し,「社会の安全化・効率化と一般市民のプライバシー保護を両立させる仕組み」を提案・開発し,世界標準として普及させることを目指しています.

 

 

e自警ネットワーク」の由来

 

昔の地域社会に存在した相互見守り,自警を,電子情報通信技術の助けを借りて,現代に再現したいという思いから,「e自警ネットワーク」という名前を付けました.

e自警ネットワーク」の普及より,子どもが誘拐されることのない社会,ただし,一般市民のプライバシーは厳格に保護される社会の実現を願っています.


e
自警ネットワークの核心は,
「自分のためではなく,地域のため!」に,
「自分の家の敷地内ではなく,自分の家の前を見守る!」

というコンセプトにあります.

私達は,安全・安心な地域社会の実現に寄与するため,以下のようなことを実現することを目指しています.
* 
誘拐,強盗などの凶悪犯罪に対して,目撃情報が無いことが有り得ない社会の実現

*  全ての家に,防犯カメラが取り付けられ,「全ての家の前の道路」が見守られる社会.
* 
全ての街路灯に,防犯カメラが取り付けられ,「全ての街灯の下の道路」が見守られる社会.
* 
ただし,
一般市民のプライバシーは厳重に保護される社会.

私たちは,日本を次のようにしたいと考えています.
* 
防犯カメラ(見守りカメラ)で,死角なく見守られた日本の実現.

*  但し,一般市民のプライバシーは厳重に保護される日本の実現.
→ そして,日本発の安全・安心な地域社会の実現法を,世界中の地域社会に広げたい!

 

活動の歴史

 

私達は,「一般市民の利他主義的な参加と,プライバシー保護を特徴とする防犯カメラシステム:e自警ネットワーク」を2002年に提唱しています.以来,

@「全国津々浦々がカメラで死角なく見守られ,誘拐された子どもが消えることはあり得ない社会の実現」,

A「ただし,一般市民のプライバシーは厳格に保護される社会の実現」

を目指し研究開発を続けてきています.

 

その過程で,上記@は,情報化社会の進展の流れの中で,近い将来,必然的に実現されるだろうこと,そして,その時,上記Aが最大級の課題として残るであろうことに気づきました.

 

しかしながら,現時点では,上記@は一般社会にとっては決して自明ではなく,そのため,その上で課題になる上記Aも自明ではないことに気づきました.そこで,上記@が狭いエリアで実現された状況を,実証実験,社会実験等を通じて社会に模擬的に現示し,社会の安全化・効率化に対する絶大な潜在的効果を示すとともに,上記Aが最大級の課題となるであろうことを示したいと考えるに至ってきています.(現在,予算獲得に向けて努力中.)

 

これまで,研究開発の方向性として,以下に示すように,以下の2つを追求してきました.

@    般市民・自治会による導入に適したシステム

A    A行政による組織的導入に適したシステムの2つを追求してきた.

 

【一般市民・自治会による導入に適したシステム】

私達は,PCを用いて安価に地域見守り防犯カメラシステム(e自警システム)を実現できるソフトウェア「代理EYEシリーズ」を開発し,無料ダウンロードサービスを20049月から提供してきています.2005年からは,NPO法人飛組との共同研究として,前橋市日吉2丁目(約300世帯)の町内に20軒・30台のカメラを設置し,運用してきています.

 

この社会実験の際には,公道をカメラで撮影することに対して,通行人のプライバシー侵害の観点から,新聞記事などで強い批判を受けました.その批判に屈せずに,社会実験をやり通したことが評価理由のひとつとなり,NPO法人飛組は平成19年度「安全安心なまちづくり関係功労者表彰」内閣総理大臣賞(図2)などを受賞しています.その後も,PCベースのシステムの普及活動を進めてきましたが,一般家庭にとって,PC24時間365日稼働させ続けることは困難を伴い,普及は進みませんでした.

 

 そこで,PCが不要であるシステムとして,私たちは株式会社ロッキーと協力して,暗号化保存機能付き常時録画型TVドアホン「e自警ドアホン」を共同開発しました.図3に,e自警ドアホン(室外ユニットと室内ユニット)の外観を示します.研究予算ゼロの中,2015年から,機材は企業からの無償供与,設置費用は自治会負担として,社会実験サイト(愛知県,東京都の4か所で約300台稼働中)を立ち上げてきています.このときの社会実験においては,「公道のカメラによる監視」に対する拒否反応は驚くほど少なく,僅か10年ほどの間に,社会の街路カメラに対する考え方・感じ方の変化に驚きました.現在,e自警ドアホンは,足立区などにおいて,実用化が進んでいます.

 

 図1 e自警ドアホン 外観

図2 内閣総理大臣賞          図3 e自警ドアホン外観

 

【自治体(行政)による導入に適したシステム】

自治体によりカメラが設置される場合として,近い将来,現在の街路灯のように,自治体によりカメラが組織的に設置され,あらゆる街路が死角無く見守られるようになることを想定しています.そのような状態を実証実験・社会実験で作り出す上で適したシステムとして,街路灯と同様に電源接続のみで動作する,暗号化録画機能付き街路カメラ「e自警カメラ」を企業と共同開発し,実証実験・社会実験を実施してきています.

 

また,私達は,全国1788自治体に対してアンケート調査を実施し,「自治体が,敷地内に加え,通学路の見守りにも責任を持ちます.その手段として,防犯カメラを用いる.」という考え方が,急速に広がっていることを明らかにしました.(下記,[参考文献2]参照.)

 

 悪用防止を考える上では,「@第三者による悪用」,および,「A管理者による悪用」について考える必要があります.「@第三者による悪用」を防止するためには,画像の暗号化保存を提案しています.前述のe自警ドアホン,e自警カメラにおいては,ネットワーク接続機能が無く,録画された画像を受け取るには,相応の時間と手間がかかり,その過程は関係者の記憶に残ることになります.そのため,ネットワーク接続がないシステムの場合は,運用法によって,「A管理者による悪用」は監視・抑止される状態を作ることできると考えています.

 

しかしながら,近い将来においては,国土の隅々にまで配置されたカメラにより,あらゆるヒト・車両の行動・軌跡がシステムにより監視・記録されるようになるだけでなく,カメラシステムがネットワークに接続され,画像ファイルの遣り取りが瞬時に行えるようになると予想します.また,任意のヒト・車両の自動追尾,異常行動・異常状態の自動検知,自動警告,自動通報,などの機能も個々のネットワークカメラに実装されてくるものと予想します. 

 

その時,「A管理者による悪用」が重大な問題となると予想しています.例えば,市役所の職員が徘徊老人の追跡を行い保護すること,警察署の職員が容疑者の追跡を行い逮捕すること,は「良い利用」ですが,彼らが,興味本位で特定の人物の追跡を行ったり,過去の行動を探ったりすることは「悪い利用」です.このような悪用ができないような仕組みを構築することが,最大級の課題になると予想しています.私達は,近い将来における高密度カメラネットワークにおける悪用を防止する方策として,「閲覧履歴の完全な記録」を実現する方法を提案しています.

 

 先述のように,「閲覧履歴の完全な記録」を実装したシステムとして,e自警ネットカメラ(図4)を開発し,実証実験サイト(図5)において,3年間以上に渡り,耐久性・信頼性・操作性の向上を行ってきています.

 

 [参考文献2] 吉浦紀晃, 加藤蒼悟, 田北啓洋,  太田直哉,  藤井雄作, “通学路への防犯カメラの導入に関するアンケート結果の分析”, 情報処理学会論文誌, Vol.59, No.3, pp.1106-1118 (2018).

 

e自警ネットカメラ    カメラ配置図01

図4 e自警ネットカメラ      図5 e自警ネットカメラの実証実験サイト

(カメラユニット)         (群馬県桐生市)

 

e自警ネットワークに関する解説記事


[1] 藤井雄作,“防犯カメラの高密度・大量設置による安全・安心な社会の実現に向けて”,社会安全とプライバシー, Vol.1, No.1, pp.1-9, 2017.

[2] 藤井雄作,“通学路を死角なく見守る防犯カメラシステムの実現に向けて ”,社会安全とプライバシー, Vol.1, No.1, pp.10-18, 2017.

社会実験の説明サイト

 

私達はこれまで,群馬県内を中心として,8つの地方自治体との共同研究の形で社会実験・実証実験を数多く進めてきています.

また,民間企業4社からは,e自警ブランドの製品が発売されてきています.

私達の活動は新聞に200回以上,NHK総合テレビに7,紹介されてきています.

 

[1] 社会実験・実証実験(実施中/計画中)の説明サイト

 

 

NPO e自警ネットワーク研究会の沿革


2002年12月:e自警ネットワークのコンセプトが,藤井助教授(会長)により発案される.
2003年4月:藤井助教授(会長)と吉浦助教授(副会長)により,ボランティア活動団体「e自警ネットワーク研究会」として,群馬大学工学部内に設置される.
2003年10月: ホームページ開設
2004年9月16日: 無料ダウンロード・サービス開始.
2009年4月1日: NPO法人化